「君は美しい」
いや、感傷と言えばこれ以上はないほどの感傷ではあった。
何も好き好んでこの恋情を秘するのではない。
なぜならば、彼は恋をしている、彼女を愛しているのだから。
だが、彼は恋する少年である前に派閥の若き幹部であった。
弱みを見せるわけにはいかない。
だから今宵も、彼は囁くのだ。
あぁ……だから、リーゼロッテ。
「――君は美しい!」
感極まって嘆声する。
叫ぶ声はよく通り、涼やかにして快い。
鏡へと、瞳の中の愛しの姫へと向けて、その利き手に携えた長得物。
それで柔な姿見のごとき、枠ごとに砕け散らぬ道理はない。
得物をいまいちど虚空へと仕舞うと、右頬に走った
「――君は美しい」
「そう。君は美しい。この手に入れることが適わないのならばせめて……!