開幕劇――どことも知れぬ場所にて
「三つ巴の陣取り遊戯。くだらん子供のお遊びだ」
女はさもつまらなそうに吐き捨てると「それもカビの生えた伝統の中でも、一等馬鹿馬鹿しい部類のだ」そう続けた。
「決闘。そう、決闘とでも呼べば、まだ格好がつくかと。殿下」
「修辞学と評するには拙劣に過ぎるな。それに――」
貴人に対する完璧な作法を以って発される男の言葉。しかしそれさえも、取り付く島無く斬って捨てられる。
「――それにどう取繕おうと、これより我らが行うことに、その意義に、何らの変わりもないのだ、ならばその実態だけが、どうして変わるものか」
「おや、これは手厳しい。しかし、そうなると此度の『戦い』は、我らの不戦勝である、とそう受け取って宜しいのでしょうか?」
けんもほろろの女の態度にも、特にめげた様子も見せず、牽制の意志を言葉に混ぜる。
「莫迦な」
面白くも無い冗談を聞いた、と女は冷笑を浮かべた。
「お気に召さぬようですが?」
「召すも召さぬも、是も無ければ非とてまた無い。王者に敗北の二文字は不要。要は勝てばよい、ただそれだけの話だ」
「如何様。最も大きく勝利した者が、また最も大きな果実を得る。極めて単純明快にして、なんと公明正大なシステムでしょうか!」
軽く頷くと、芝居がかった調子で、音吐朗々、声高に謳いあげる。
「公明正大。お寒いセリフだ、三文役者。白々しいにも程があるとは思わないか、その公正なシステムとやらを、法を定めた側の言い草としては」
「さて、それはお互い様であるかと」
「ふん。力無きものたちを制し、締め出した上での限定的な公正だ。言い訳などする気はない」
男と女、対立する両者も、より大きく、一歩ひいて眺めれば、等しい正義、道理の内で、計画的な相克を通じて、それぞれの帰属集団の間の利害調整の駒に過ぎない。そして、それを弁えた上でなお。
「そうだ、神々の御山を主宰し給う、高き《天帝》が継嗣たる、この余に誰を憚ることがあるだろうか」