洗い桶の中を芋が駆けている。
芋は白の狩衣を纏い、背には歳旦祭の振舞いの神酒をおさめた樽を負っていた。
この「月夜見神社」に奉仕する神職である。
ぶつくさ言いながらも二年参りの混雑の中を縫い進んでいたその足が、ふいにとまる。
足裏に揺れを感じたような気がしたのだ。
それで周りを見渡してみれば、他の神職や参拝客たちも戸惑ったふうに顔を見合わせている。
どうも気のせいではないらしいと首を傾げる。地震だろうか。
果たしてそうであった。やにわに地面が揺れ始める。どれくらい揺れていただろうか、数分、いや十数分は揺れていた筈だ。
参拝客たちが口々に言い合う。「びっくりした。だが、今日の地震は短かった」「でも激しかったわ、被害が出てないと良いのだけれど」
その言葉にはっとしたふうに『空』を見上げた男であったが、ほっと安堵の息を吐く。
空を覆うガラスに異常はなく、平素と変わらぬ様子でその『青い星』が輝いていた。